新しいCDが発売になりました。

先月日本で新しいCDが発売になりました。
イプシロンレーベルの4枚目となる「TAKAHIRO YOSHIKAWA – FRANZ LISZT」です。

日本で、と書きました。イプシロンのCDはこれまでもまず日本で発売になり、その後、イタリア、そしてアメリカ合衆国とカナダでも発売されます。日本だけでなく、イタリアでも各雑誌や新聞に批評が出たり、ラジオで紹介されたりしています。アメリカなどでは特にインターネット配信やダウンロードで聴いていただけているようです。

このCDは、2016年の6月3日に東京のイタリア文化会館のアニェッリホールでのライブ録音で、イタリアに関連のあるリストの作品を収録しました。お聴きいただけたらとても嬉しく思います!

収録曲:
フランツ・リスト作曲

「巡礼の年第2年:イタリア S.161」より
1. 婚礼
2. 物思いに沈む人
5. ペトラルカのソネット第104番
7. ダンテを読んで: ソナタ風幻想曲

「巡礼の年第3年 S.163」より
2. エステ荘の糸杉に I : 哀歌
3. エステ荘の糸杉に II : 哀歌
4. エステ荘の噴水

リゴレットによる演奏会用パラフレーズS.434
パガニーニ大練習曲第3番「ラ・カンパネッラ」S.140 No.3

CD+DVDのページのリンクからお買い求めいただけます。

カテゴリー: CD

ドビュッシーのメヌエット(ベルガマスク組曲)のゲラ。

前回はドビュッシーの映像第1集の「水の反映」の自筆譜と初版と原典版を見比べてみましたが、今回は、同じくドビュッシーのベルガマスク組曲の第2曲「メヌエット」の校正刷り、所謂ゲラをご紹介します。
これは出版される前の校正刷りにドビュッシーが鉛筆で訂正を書き込んだもので、パリの国立美術館にあります。(Paris, Bibliotèque nationale de France, Départment de la Musique, Rés. Vma 286)

1ページ目は第72小節(下の楽譜の1段目の最後の小節)から繋がっています。

69小節から76小節(初版:E. Fromont, 1905)

構成の段階で削除されたフレーズがあったこと、それを今弾いてみるとなんだか陳腐な感じがするのですが、こうである可能性もあった、というのは新鮮な発見で、古典が生まれた瞬間を追体験するような印象を受けました。
そして、下の楽譜の1段目から2段目に移るところの唐突な転調は、突然の舞台転換、舞台というよりはむしろ映像におけるカットを思わせるものなのですが、これが実際に6小節カットされていたのですね。驚きと納得、といった感じを受けました。下の音源の03:00のあたりです。

面白いですね!

ところで、ウィーン原典版には下のような箇所があります。

ここはウィーン原典版以外の楽譜では以下のようになっています。

86小節から88小節(初版:E. Fromont, 1905)

ウィーン原典版の注釈には「編集者の考えを支持する情報源はないけれども87小節のソ♯はソ♮だと思う」とあります。このような大胆な変更は、Critical editionなどであればいいのですが、原典版と銘打っている楽譜では少し相容れないように思います。ドイツ語圏の人にとっては、「Urtext」というのは日本語の「原典版」という言葉よりももう少し柔らかいイメージなのかもしれませんね。

ドビュッシー「水の反映」自筆譜と初版と原典版と

ミラノはますます暑く、とても夏らしくなって来ました。

ドビュッシーの映像第1集の第1曲「水の反映」の、自筆譜と初版にあるちょっとしたリズムの違いをここで書いておこうかと思いました。
そもそもこの曲の、フランス語の原題は「Reflets dans l’eau」といって、dans l’eauは英語だとin the water、水の中の、ということで、水面の反射ではなく、水の中で光の反射する様子が描かれているのですね。

では、ここで注目するのは、第33小節。

1:45あたりからです。

水の反映 第33小節 Durand初版

水の反映 第33小節 自筆譜

この左手バスのリズムがなぜか自筆譜では付点と十六分音符の旗が消されて2つの八分音符になっています。要するに前の小節と同じリズムではなく、次の小節と同じリズムであるということです。これは、決定的な違いであって、なぜ初版に反映されなかったのかは分らないし、ドビュッシー自身によって訂正されたのがどうかは定かではありませんが、たとえ他人によって訂正されたのであったとしても、自筆譜の訂正後のもののほうがずっと説得力があると私は思います。

初版の版権が切れてから出た所謂「原典版」も見てみましょう。

水の反映 第33小節 ヘンレ版 1989年

水の反映 第33小節 ベーレンライター版 2012年

この曲に関してはどちらの原典版も自筆譜と初版を基にしていると書いてありますが、ヘンレ版にはこの自筆譜に見られるリズムの訂正は反映されておらず、巻末の注釈でも触れられていません。ベーレンライターは自筆譜の通りになっており、注釈にも訂正されており、この訂正はドビュッシーがしたに違いない、と書かれています。

で、何が言いたいのか、と言うとですね、こういうふうに楽譜をそれぞれ読み比べるのも演奏をするという行為への過程のひとつでして、このような小さな部分の自筆譜と初版と原典版のそれぞれの違いを見付け、正しいか間違っているかという結論はなくて、自分の考えでどのように弾くかを選択する、というのもまた楽しいことなのです。

- 自筆譜と初版はペトルッチ・ミュージック・ライブラリーでダウンロード出来ます。
https://imslp.org/wiki/Images%2C_1ere_s%C3%A9rie_(Debussy%2C_Claude)