ハイドン ソナタ へ長調 Hob. XVI: 23 (1)

11月から12月にかけて日本で弾く予定の曲について、知っていることや思うことをつらつらと書いてみます。

まずはハイドンのソナタ。

曲の成立した事情などになると伝記的な史実や時代背景などにも触れざるを得なくなりますが、煩雑になるので、Wikipediaのリンクを貼っておきますね ハイドンについて。また興味のある方はハイドンとゆかりの深いエステルハージ家についてもご覧ください。Wikipediaはじめネットに転がっている情報は、知っていることについて書いてあるのをみるとなんだか怪しいことも多く、でも、知らないことについてはうっかり見てしまうので、注意が必要です。興味のある方は、書籍などで詳しく調べましょう。

このソナタは1773年(少なくとも74年まで)に書かれました。すでにヨーロッパ中に名を知られていたハイドンの作品はしばしば作曲者の知らないところで勝手に出版されていたそうで、このソナタを含む「チェンバロのための6つのソナタ集」は、ハイドン自身によって出版社とやり取りを交わして出版されたということです。やり取りというのが、契約なのか、または校正なのか、はっきりしません。自筆譜にあるスタッカートの記号などが初版には欠けているのを見ると、ゲラの校正をしたのではないと思います。これら6つのソナタはニコラウス・エステルハージに捧げられました。このニコラウスさんはハプスブルク家からエステルハージ家に伯爵号を与えられた時の人で、1645年に亡くなっていますので、そのニコラウスさんに捧げてエステルハージ家への感謝を表したということなのでしょうか。あるいは違うニコラウスさんがいたのでしょうか。よく分かりません。「知っていることや思うことをつらつらと」と冒頭で書きましたが、いきなり知らないことをたどたどしく書き始めました(苦笑)。そしてこのニコラウスさんに関することなど、どうでもいいことかもしれません。ただ、書くということは知らないことをこそ書くのだ、知っていることを書いても意味がない、というような文章を見たこともあり、それはもっと内容のある文章に関する言葉ではあったにしても、気にせずこのままのスタンスで続けます。

では曲を見ていきましょう。
第1楽章、自筆譜にはテンポの指示がありません。特別なテンポで弾かれるべきだと考えていたとしたら何か書いたと思うので、この楽章はいつも通りのハイドンのソナタの第1楽章のAllegro(初版)でいいと思いますが、32分音符がたくさん出てくるので速過ぎてもいけないと思ったか、ランドン校訂のウィーン原典版はModeratoです。
自筆譜を見てみると、右手はハ音記号ですね。へ長調、4分の2拍子です。
(自筆譜はImslpにあります。初版その他いろいろあります。)

スタッカートについて
弱起の後の第1小節の1拍目の右手のファの音にスタッカートの記号が付いています。縦長でとんがっている記号、人参のような、これはスタッカティッシモと言うのでしょうか?ここで書かれているこの記号に、単なるスタッカートではなくスタッカティッシモという意味があるのかは定かではありません。ともかく、スタッカートとは、切れていることで、アーティキュレイションの記号の一つです。前後の音と分離されていると言えばいいのでしょうか。辞書などにも誤解があるようですが、音の長さが短くなるのではありません。短く聞こえるかもしれませんが、少なくとも、短く演奏するのではないのです。例えば、「おっと」と言った時、「お」と「と」の切れ具合によっていろんなニュアンスが出せると、これはあまり的確な例ではないですが、そのような重なった子音の感じであったり、そういった表現を付けましょうという記号です。「ファー」と伸びるのではなく、「ファッ」と小さな「ッ」の入るイメージで、その小さな「ッ」も含めて8部音符というのが正解だと思います。あるいは「ポン」と音がする「ン」など。そして、管楽器のタンニングや弦楽器の弓のアタックのように、音の始まり方も、当然アーティキュレイトされないといけません。始まりは前の音と繋がっていてただその音の終わり方だけにスタッカートのニュアンスを付けるのは、上の譜例の2小節目の1拍目裏拍から2拍目頭にかけてのように、前の音とスラーの掛かっている場合のみです。
8分音符にスタッカートが付いているから16分音符で弾く、というのは単純な間違いです。そのような発想自体が根本的に間違っているので、例えばWikipediaにある「一般に音価の半分の長さ鳴らすと説明されるが、実際には場合によってこれより長くなることも、短くなることもありうる。」という文章は、日本語として間違えているだけでなく、意味がありません。他のサイトなどで、4分音符にスタッカートがあるものを「記法」の譜例に、そして8分音符と8分休符を「奏法」として載せているのを目にしましたが、そうだとしたら、なぜ作曲家がその奏法の方を書かなかったのか。もう少しよく考えましょう。ただ、特に小さいお子さんに説明するのに「考えましょう」というのも難しいのかもしれませんが。
音の長さというのはとっても難しい問題です。拍を数えるとき、1-2-3-4と言ってみると、この数字は拍の頭を数えているので、次の数字を言い始める直前までがその拍の長さになります。その長さ一杯一杯に伸びているというのはレガートの時です。例えば、テヌートという記号、ある音の長さを充分に保って演奏する、という意味になりますが、この記号のある音は、レガートでなければ、むしろ次の音とは切りますね。充分に保つ、でも切れるということは、短くなります。そもそも全ての音は切れているものなのかもしれません。人の声も、子音は母音の流れを分断しますから繋がっているとは言えないわけです。音の長さについても常に解釈しないといけないのですね。

アッポッジャトゥーラについて
上の譜例の2小節目の2拍目裏拍にアッポッジャトゥーラ=倚音(長前打音)が出てきます。これは当然拍の頭で弾くのですが、なぜ普通の音符で書かれていないかというと拍頭にある非和声音だからで、アッポッジャトゥーラらしいニュアンスを付ける必要があります。アッポッジャトゥーラというのは、もたせかける、支える、などと辞書にありますが、イタリア語のニュアンスとしては(楽語がイタリア語で良かった〜)重みをかけるというのか、まあ、まさに、もたせかけるという事になります。ズバリの日本語がなく、やはり辞書はきちんと言葉を選んであるなあとも思います。この小さい音符で書いてある音に軽く重みをかける感じですね。そうすると他の音よりも少し強調されるわけです。ちょっとしたニュアンスなのですが、大切ですね。

(続く)

以下の公演でこのソナタを演奏します。

11月17日(土) 15:00開演
ピアノリサイタル 稲城市立 i プラザ ホール

11月28日(水) 19:00開演
ピアノリサイタル 東京 銀座王子ホール

12月02日(日) 14:00開演
ピアノリサイタル 大阪 梅田 あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール

詳細はCONCERTページをご覧ください。