カルタニセッタ その5

トラットリアでの食事はまずまずといったところ。この町の特徴なのか何なのか、油が多く、生クリームもそこかしこに使われていて重い。量は南イタリアらしくたっぷり。味は好みではあるが、重くてたっぷりしているというのは上品とは言い難い。ワインも大味、葡萄の味よりも樽の味のするシチリアのシャ ルドネ。

食事中に睡魔に襲われた。日本から帰ってきたのは2日前、まだ少々時差ぼけ気味である。寝ぼけながら大量のパスタや魚を口に詰め込み、彼らの昔話を聞いている振りもしながら、今回の日本滞在について思い巡らす。

日本には11月16日から12月11日までの滞在だった。その前、10月28日から12月6日も日本にいた。10月18日から11月14日までスカラ座 で9回モーツァルトのピアノコンチェルトを弾いた。その合間にブレーシアと西宮でリサイタル。その後は11月19日にクラリネットの中村克己氏とデュオコ ンサート、27日は神戸のリサイタル、12月2日東京リサイタル、9日はオペラコンサート。明日のカルタニセッタも入れると2ヶ月間で16回のコンサート に出演したことになる。この秋は少しまじめに働いたのである。

僕としてはなかなかたくさんの本番をこなしたのだけれど、考えてみると、少しこの料理と似ていたようだ。仕事である以上こなせるのは当たり前である。たくさんの曲を演奏した。一回一回本気である。けれど、一つ一つの演奏が最上であったかどうか。仕上がりはしていたかもしれないけれど、充分掘り下げれてはいなかったのではないか。字句の意味よりも話の面白さ、石の質よりも形の仕上がり。量の多さや味付けの濃さに傾いていたようにも思われ、そんな反省をしながらの夕食はますますまずく感じられた。

11時にホテルに戻った。フロントで鍵を受け取るときに灰皿を頼んだ。

「法律でお部屋での喫煙は禁じられています。」

そう言ってから僕の顔を少しうかがう。少し残念そうにしてみた。

「でも、窓を開けて吸う分には問題ないでしょう。禁じられているので灰皿はございませんが…」

チンプンカンプンも甚だしいのである。僕の知る限り、法律で禁じられているのは公共の閉じられた空間での喫煙である。ホテルの部屋は公共の場ではないは ずで、これまでにも特に問題なく吸えるホテルが大半であった。禁煙のホテルは、ホテルの方針として禁煙なのだと思っていた。窓を開けて吸うのを勧めるというのも合点がいかない。しかも吸っていいけれど灰皿はありません、ということは窓から捨てるしかないわけだ。

ともかく言われた通り夕食前と同じように窓を開けて一服し、灰も吸殻も窓から捨てた。そしてすぐ寝た。次の日の朝8時まで死んだように(高いびきをかいていたかも知れないが)眠った。

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