ベートーヴェンとナポリ (1) 月光

ナポリと言えばピザですね。トマトソースとモッツァレッラチーズとバジリコの乗っているマルゲリータというピザはとても有名です。
でも今日はピザの話をするのでも、ナポリの街の話をするのでもありません。
ベートーヴェンとナポリ、という題ですが、ベートーヴェンがナポリに行ったという話をするのでもありません。
ナポリの6度のお話です。
ナポリの6度とは「下属音上の短6度」です。ハ長調ですと、下属音はファ、その短6度はレ♭です。この音を持つ六の長三和音(長三和音の第1転回)は、ハ長調(短調も同じ)ですと、ファ−ラ♭–レ♭です。この和音はちょうど主音の半音上の音を根音とした長三和音の第1転回になります。詳しくはWikipediaをどうぞ。(ただ、Wikipediaには「例として、ハ短調であればⅡの和音Dm(♭5)の根音(D)を半音下げたもの」とありますが、機能としては、IVの和音FmのCを半音上げたもので、このCの半音上がったD♭には下降導音性があってCに行こうとします。)
と説明されてもよく分かりませんね。

月光のソナタを見てみましょう。
第1楽章冒頭です。

第3小節目の後半の和音に、レ♮があります。ファには♯が付いていますので、レ-ファ♯-ラの和音の転回になりますね。嬰ハ短調の中にニ長調の主和音が挟まっています。これが典型的なナポリの和音です。
第1楽章には他に2回出てきます。
21小節目の一つ目の和音(嬰へ短調の中にト長調の主和音)。

50小節目の1つ目の和音(嬰ハ短調の中にニ長調の主和音)。

これらの和音は、少し安定した感じから外れる感じと言いますか、ずれる感じ、どこか別の方向へ行きそうな感じ、意外な印象を与えるのではないでしょうか。あまりにも有名で聞きなれた音楽なので特別な和音には聞こえないかも知れませんね。。

違う曲ですが、ナポリの6度のとてもよく分かる演奏がありますのでご紹介します。
ただ、モーツァルトなんです。
ピアノ協奏曲第23番の第2楽章、エッシェンバッハの演奏です。
下のビデオは49秒目から始まりますが、59秒のあたりで、エッシェンバッハがハッとした表情を見せるところ、ここがナポリなんですね。


9小節目、嬰へ短調のVIの和音レ-ファ♯-ラの後、突然ト長調になりますね。エッシェンバッハ、流石です。
正に「あ、こんなところでピザの匂いがする!」とでもいった驚きの表情を見せますね。

月光に戻ります。第3楽章にも出てきます。



イ長調の主和音の第1転回形ド♯-ミ-ラが沢山ありますね。嬰ト短調のナポリの和音です。第1楽章とは違って劇的な効果を引き出しています。
再現部も同様です(嬰ハ短調の中にニ長調が)。




コーダにも。

沢山ありましたね。

展開部の中にも、ナポリの匂いのする怪しい箇所があります。


76小節は嬰へ短調のV7、78小節前半は嬰へ短調のVIの和音=ニ長調の主和音、後半でド♮が加わってト長調の属七から79小節でト長調になります。モーツァルトで見た進行とよく似ていますね。81小節の最後の16分音符でバスのソが半音下に引っ張られてファ♯になって、嬰へ短調になって行きます。79小節から81小節のト長調の部分で使われているソ-シ-レの和音は転回形ではないですが、前後の嬰へ短調に対して、ナポリの関係にあります。このような状況を、「ナポリの調」(主音の半音上の音を主音とする調)と呼んでみましょう。
(続く)

2018年11月12月の日本での公演のおしらせ

詳細はCONCERTページをご覧ください。

11月28日(水) 19:00開演
ピアノリサイタル 東京 銀座王子ホール

12月02日(日) 14:00開演
ピアノリサイタル 大阪 梅田 あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール

11月17日(土) 15:00開演
ピアノリサイタル 稲城市立 i プラザ ホール

11月23日(金) 17:00開演
赤坂区民センター区民ホール
「ピアノとバレエの華麗なる饗演」
吉川隆弘 X 西島数博 X 梶谷拓郎 スペシャルゲスト井脇幸江
ヴェニスに死す / イタリアン・カラーズ

アメリカン航空!

明けましておめでとうございます!
またまた少しアップするのをなまけておりました〜!
今年はたくさん書きます!(年始の抱負)

まずは、ご報告が大変遅れましたが、去年の8月からアメリカン航空の機内エンターテイメントで、イプシロン・インターナショナルから出したベートーヴェンとドビュッシーのCDがお聴きいただけるようになりました!
これは、アーティストとしてはもちろん、レコードレベールを自分で立ち上げたという立場からも非常に嬉しい出来事です!
皆さん、アメリカに行く時にはアメリカン航空に乗って私のベートーヴェンとドビュッシーを聴きましょう!笑

Spotify: https://open.spotify.com/album/73wVSftpqg9Mg6mI8z3NLR

Spotify: https://open.spotify.com/album/6vwANVFAkN4PLBZX4jKu7y

コンサートのお知らせ

2018年2月12日(月:振替休日)
13:30開場 14:00開演
めぐろパーシモンホール 小ホール、東京
全席指定 2900円 車椅子席あり 未就学児童入場不可

【プログラム】
ベートーヴェン ピアノソナタ第13番変ホ長調 Op.27-1
ドビュッシー ベルガマスク組曲 前奏曲 – メヌエット – 月の光 – パスピエ
ドビュッシー 版画 塔 – グラナダの夕べ – 雨の庭
リスト ソナタロ短調
詳しくはコンサートページをご覧下さい。

ベートーヴェンのCD

2015年11月に日本で発売になったベートーヴェンのアルバムが去年の年末からイタリアで、今年の1月からアメリカ合衆国とカナダで発売になりました。
去年からイタリアでいくつか批評が出ましたので貼付けておきます。

音楽月刊誌AMADEUS 02/2017 Claudia Abbiati

Gothic Networkというウェブマガジンのようなもの 2017/1/27 Piero Barbareschi
http://www.gothicnetwork.org/articoli/ypsilon-beethoven-nellinterpretazione-di-takahiro-yoshikawa

新聞 Il cittadino 2016/11/2

新聞 Giornale di Brescia 2016/5/1 Marco Bizzarini

 

なぜこの4曲なのか。

前回は単にベートーヴェンのCDを出しました。というご報告でしたが、このCDについて、なぜこの4曲ですか?と尋ねられることがありますのでお答え致します。
選曲をする時には、コンサートのプログラミングでも同じことですが、同じような曲が並んでいても退屈ですし、全く無関係な曲が並んでいるのも通して聴く意味がないので、各曲に関連があり、バラエティーもあるプログラムがいいのではないかと思っています。ゆっくりした曲だけのCDや激しい曲ばっかりのCDももちろんありえますが。
で、このCDでのバラエティーはといいますと、それぞれの曲の性格が違う、というだけでなく、ベートーヴェンの生涯の異なった時期に作られた作品であるということでしょうか。ベートーヴェンのソナタは32曲それぞれ全く違いますからどれを選んでもヴァラエティーは充分あります。

ピアノソナタ第13番Op.27-1の書かれた1800年頃のベートーヴェン

ではそれぞれの曲の関連ですが、これもコンサートのプログラミングと同じく、まずは調性です。複数の曲を続けて聴く時には、調性のある曲であれば、やはり調性に関連がある方がいいのではないでしょうか。例えばあまり音楽の知識のない人は調性などにはこだわらないし分らない、というのは大きな間違いだと思います。どんな音で終わってどんな音で始まるかは聴いていれば感じるますし、むしろ分らない人ほど敏感かもしれません。
それは近い調であればいいというだけではありません。あえて遠い調を持ってくるということももちろんありえます。。私の1枚目のショパンのCDはショパンのOp. 59の3つのマズルカから始まりますが、この3曲は続けて聴いても自然ですがそれぞれの曲の調性はとても遠いです。下にOp.59-1のマズルカのビデオを貼付けてみました。ひさしぶりに聴いてみると少し違和感もありますが、どういう曲かはとりあえずわかります。

ベートーヴェンのCDの4つのソナタはハ短調、変ホ長調2曲、変イ長調という順でこれは♭3つから4つのとても近い調ですね。それだけではなく、悲愴の第2楽章は変イ長調、Op.27-1の第2楽章はハ短調、第3楽章のアダージョはこれも変イ長調、告別の第2楽章はハ短調とそれぞれ関係しています。また、悲愴の第2楽章の中間部は変イ短調という♭が7つある珍しい調ですがこれはOp. 110の第3楽章の嘆きの歌の一回目の調でもあります。

ピアノソナタ第31番の書かれた1年後、1823年の肖像画

調性だけではなく、これらの曲には共通している動機というのか音形も見られます(聴かれます)。
一例を挙げると、悲愴第3楽章78小節目

Op. 27-1第3楽章アレグロヴィヴァーチェのコーダ冒頭265小節目

Op. 110第3楽章フーガ冒頭

以上3つの箇所で聴かれる上ったり下がったりする音形は似ていないでしょうか?異なる時期に書かれた3つの作品に似た音形が使われているのは興味深いと思いつつ、このように楽譜を貼付けて並べてみると、それで?という気もしなくもないですが、まあ、それぞれ関連がありますね、というだけのことです。他にもありますので、興味のある方は探してみてください。

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2016年5月6月の日本でのコンサートのお知らせ

吉川隆弘ピアノリサイタル
ピアノリサイタル
2016/5/25(水)19:00 西宮市プレラホール
2016/6/3(金)19:00 イタリア文化会館東京 アニェッリホール

プログラム
ベートーヴェン:ピアノソナタ第26番 変ホ長調 Op.81a『告別』
リスト:
巡礼の年第2年『イタリア』より
婚礼、物思いに沈む人、ペトラルカのソネット第104番、ダンテを読んで:ソナタ風幻想曲
巡礼の年第3年より
エステ荘の糸杉に I:哀歌、エステ荘の糸杉に II:哀歌、エステ荘の噴水

詳細はコンサートページをご覧下さい。