ベートーヴェンとナポリ (2) 熱情

ではでは引き続き、ベートーヴェン、今回は熱情です。
ナポリの和音、前回の月光以上に沢山出てきます。
早速そそくさと楽譜を開いてみましょう。
冒頭。

へ短調で始まったのに第4小節目でいきなり変ト長調に転調します。半音上、ナポリの調ですね。
第2主題からもう一つの要素への推移の中で、第42小節アッポッジャトゥーラ(倚音)付き(変イ短調のなかに重変ロ短調の主和音の第1転回形)。

二つ目の第2主題と言えばいいのか、第2主題部の3つの要素の2つ目、53小節に上と同じ和音の転回していない基本形。直後の確保でも繰り返される。

再現部で提示部に出てきたものは全て繰り返されます。
コーダでは218〜219小節、へ短調に変ト長調の主和音の第1転回。

月光では第1楽章冒頭の言わば序奏に当たるところで出て来ていましたが、熱情は主題そのものに出て来ているので印象をより強くしています。

月光の第2楽章にもなかったように、熱情も第2楽章にはナポリの和音は一つもありません。

そして、第3楽章。

そもそも、月光も熱情も第1楽章の冒頭と第3楽章の第1主題に強い関連性があります。
月光第1楽章の始まり


このふたつの音楽の関連はバスの下がって行くところですね。私は最近は第1楽章の2分音符の長さが第3楽章の1小節の長さと同じになるように丁度いいテンポにして弾くことでその関連を強調してみているのですが、なかなか気付いてくれる方はいないようです。さらに第1楽章の三連符がそのまま第2楽章の1小節になるようにもしているのです(第2楽章の冒頭のバスもファ-ミ♭-レ♭-ドと下降の順次進行です)。これらの工夫に気付く人のいないのは、実は最近気付いたのは私だけで当然のことだから、または、あまり効果がなく、意味のない工夫だからなのかもしれません。具体的にそのような工夫をしていることに気付く人がいなくても、そのようにすることで曲全体がより一つにまとまり、求心力とでも言いますか、説得力の強い解釈になっていればいいのですが。何はともあれ、私自身の納得度が高まるというだけでもすでに効用はあるのです。
話は変わりますが、第3楽章のはじめの主題は7小節目にクレッシェンドと書いてあるところまでピアノPなので、スフォルツァートsfはピアノの中のスフォルツァートなのですね。そんなことにも私は最近になって気付きました。ただ、このsfをPの中で弾くことにこだわると、159小節に続く箇所がどうもうまくいかない気もするのです。ここを全部ピアノで弾けるものでしょうか。もう少し消化しないといけませんね。

大きく脱線しました。熱情の第1楽章冒頭の第1主題と、第3楽章の第1主題の関連は正にナポリにあります。第3楽章の第1主題は下の楽譜の1段目最後の小節=第20小節から。2段目の最後の2小節(第24〜25小節)がナポリ。

76小節からの第2主題はナポリの和音から始まります。sfの付いているファ-ラ♭-レ♭はハ短調のナポリです。


このナポリはモーツァルトのハ短調のピアノ協奏曲K.491の3楽章の最後に出てくる下のフレーズとそっくりですね!ベートーヴェンが音量で強調しているのに対して、モーツァルトは繰り返しています。

展開部にも出て来ます。


展開部でも再現部でもコーダでも第1主題が使われるところではナポリが出て来ますから、これでもかというほど出てくることになるのです。

ナポリの和音を多用したのはもちろんベートーヴェンだけではありません。前回もモーツァルトの例を挙げましたが、ショパンもたくさん使っています。ノクターンでもワルツでもたくさん見られますが、最も顕著なのはバラード第1番でしょうか?
驚くべきことに、いきなりナポリの和音から曲が始まります(ト短調のド-ミ♭-ラ♭)。

コーダ215小節の2拍目からのフレーズの始めの4小節は、熱情第3楽章の第2主題やモーツァルトのハ短調協奏曲の上で見たものと同じ旋律です。

曲の頭からナポリの和音というのは珍しいと思いますが、例えばショパンの敬愛していた作曲家、ベッリーニのオペラ「ノルマ」の有名なアリア「清らかな女神よ(Casta diva)」の序奏は、レチタティーヴォに続いてナポリの和音から始まります。

ナポリの和音というだけあって、ナポリの音楽院で学んだシチリア生まれの作曲家が大胆な使い方をしていますね〜。
(続く)

2018年11月12月の日本での公演のおしらせ
全公演で熱情ソナタを弾きます。
詳細はCONCERTページをご覧ください。

11月17日(土) 15:00開演
ピアノリサイタル 稲城市立 i プラザ ホール

11月23日(金) 17:00開演
赤坂区民センター区民ホール
「ピアノとバレエの華麗なる饗演」
吉川隆弘 X 西島数博 X 梶谷拓郎 スペシャルゲスト井脇幸江
ヴェニスに死す / イタリアン・カラーズ

11月28日(水) 19:00開演
ピアノリサイタル 東京 銀座王子ホール

12月02日(日) 14:00開演
ピアノリサイタル 大阪 梅田 あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール